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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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『アワーミュージック』 もうフォークソングは戻ってきません

アワーミュージックメイン (c)プレノン・アッシュ面白かったのは、切り返しショットのくだりだ。ハワード・ホークスの切り返しショットは男と女の区別がついていないから、切り返しても同じ人を見ているようだ、と。

切り返しショットが対立を示すとよく言われる。単純な話、それが「聞き手」と「語り手」をきっぱりと分けるからだろう。一方が話しているときは一方は聞いている。それは人間にアイデンティティがあるからのことで、社会というものが形成されている証拠だし、戦争が起こる端緒だ。まさに驚くべきは、人間がまだ滅びていないことなのだ。

もちろん『アワーミュージック』は戦争賛美の映画ではない。だが反戦映画でもない。ゴダールは切り返しショットがストーリーを紡ぎだして、戦争賛美か反戦か、どちらかしか生み出さないのを、避けようとしている。カメラが聞き手に寄り添って、語り手の顔を大写しにすると、聞き手の存在がカメラの裏側に吸収されて見えなくなり、カメラの裏側はスクリーンに、スクリーンは観客の目の奥へと吸収されてしまう。カメラと聞き手とその裏側のカメラマンがいなくなってしまうのだ。次の瞬間ショットは切り替えされ、語り手と聞き手が入れ替わり、同じことが繰り返される。交互にふたりの話が――ひとりの扇動家が話しているのと同じように――ストーリーを紡いで戦争の価値判断をし、結局勝った方か負けた方かどちらかの意見を画面に大写しにするのだ。トロイ戦争はギリシャにたまたま詩人がいたから、あのトロイ戦争が語り継がれているだけなのに。

アワーミュージックサブ (c)プレノン・アッシュそこでゴダールは、彼が話している間彼の表情を撮影しない。「ゴダールさん、デジタルカメラは世界を救いますか」その問いかけの後、初めてカメラはゴダールの正面を向いて彼の言葉を捉えようとするのだが、結局彼は何も言わないのだ。私はてっきり、彼は多くの宗教家や哲学者がそうするように、「いいえ」と否定辞を述べてそれが真理でないことだけを告げるものだとばかり思っていたのに。ゴダールは何も言わないのだ。

アワーミュージックサブ (c)プレノン・アッシュ何も言わないこと、それは映画にだけ許された表現かもしれない。何も言わなくても、そこには何かが映っているし、何かが聞こえている。ゴダールの答えが聞けないとき、私たちはとまどう。よっぽどいつもの映画、解答例付きのテストみたいな映画にスポイルされているからだろう。私はスクリーンのゴダールにトマトを投げつけてやりたくなった。テキトウな質問投げかけておいて、答えなしかよ!金返せよ!!……まあたまたまトマトを持ち合わせていなかったので投げなかったのだが。そういう対話の余地みたいなものが、無言にはある。次の瞬間に、カメラが切り返されて、私の方に向いたらどうしようかと戦慄した。

サミュエル・フラー DVD-BOX地獄編、戦争シーンのコラージュでは、一度は何処かの詩人かまたはジャーナリストがやった戦争の価値判断を、再び「単なる映像」の次元に落として、人間が滅びていないのって不思議だよね、って私たちの世界にうさんくさいストーリーが語られ始める際のことを問い質した。煉獄編は到着するゴダールを乗せた飛行機、往来する路面電車とサラエボの壊れた街並み、黄色いベンツ、無言のゴダール、オルガへのクローズアップ、帰る飛行機。乗り物が多いが、敢えてここは乗り物に乗った人間が切り返しショットを拒む性質を持っているのだと、ムリヤリ読んでみる。そして花壇の花、オルガの死を告げる電話(コードがやたら長い)、枯れた花……。天国編、米兵、歩くオルガ、黄色いカバーの『Street of No Return』。ショットは時間が流れるように前へ前へとつながっていくだけで、ふたりの会話を交互に混ぜてひとりの演説にしてしまうためには使われない。

※切り返しショット
会話するふたりをひとりずつ撮影し交互につなぎ合わせる手法。
[2004仏=スイス/プレノンアッシュ][監督][脚本][出演]ジャン=リュック・ゴダール[製作]アラン・サルド/ルート・ヴァルトブルゲール[撮影]ジュリアン・ハーシュ[出演]ナード・デュー/マフムード・ダーウィッシュ/フアン・ゴイティソーロ/ピエール・ベルグニウ/ジャン=ポール・キュルニエ/ジル・ペクー
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