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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』 のーみゅーじっくのーらいふ

エリエリこれは当たり前の話であるが、カメラに写らないもの、マイクでは拾えない音がある。これらの装置に感知できないからといって、「それ」は存在しないという訳ではない。五感では感知できない、空想的な産物という狭義の意味ではなく、私たちが感じて、これらのものが感知できないモノというのはたくさんあるのである。夕日が綺麗だといってカメラを手に取り、シャッターを押す。後日現像してみると(またはデジタル画面でその場で確認してみると)オレンジ色の発光は見る影もなく、質素な太陽がただおさめられているだけである、こんな経験をあなたもしたことがあるのではないだろうか?

このような興奮を伴うほとんど奇跡のような状況を保存する。これが映画監督の使命である。そして青山真治はこの指名を『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』によって果たそうとした。人間の目や耳というのは都合よくルーズに形成されている。撮影現場で発生した光や音はオートマチックで同時進行的にマスタリングされ脳みそに感知される。そこで感じたものはただカメラを構えているだけでは、マイクを向けているだけではフィルムに定着してくれる事はないのである。今まで、たむらまさきと共に光学的にこのことに挑んできた青山は前作『レイクサイド・マーダーケース』より音楽(劇中に使用される楽曲という意味だけでなく、その映画に関わるすべての音)にもその手を伸ばしてきた。青山監督自身もミュージシャンであるが、同様にミュージシャンとして活躍している浅野忠信、中原昌也をキャストとして、そして前作からタッグを組んでいる長嶌寛幸を「音楽」として迎え入れ、満を持した。

視覚映像によって感染・発症する“レミング病”が蔓延する世界で、それを抑制する事のできる二人の音楽家ミズィ(浅野)とアスハラ(中原)。孫のハル(宮崎)がレミング病を発症したためナツイシ(戸田)に彼ら二人に音を奏でさせるよう依頼したミヤギ(筒井)、物語は主にこの五人によって展開する。音楽とは酸素のようなものである。空気中の酸素濃度が上昇すれば酸素中毒を起こし死に至るだろう。この世界では音楽も同じである。同じ濃度の「酸素」でもある人間には生命に活力を与え、ある人間には死をもたらす。最終的にハルはレミング病を抑制する事に成功するが、ラストシーンの彼女の衣装がものがたるように、じきに再び発症し命を落とすだろう。

この映画は現場で故意に出現させた音、奇跡的に発生した音を再構築してフィルムに焼き付けている。撮影現場の音を捕獲しようとしているのである。それは映像と音楽を同時に収録するという事では決してない。現在の技術では全てを同時に機器に収納することは現場の保存への最短ルートではないだろう。この事実はミズィとアスハラが様々な音を採取し加工するという劇中の行動とシンクロする。そして青山真治が仕掛けた映画音楽は人間は音楽(音)から逃れることはできないという事実に重なっていく。どんなに耳を塞いでも、骨伝導音、筋肉の摩擦音などが聞こえてしまい、何も聞かないということはできないだろう。世界が音楽に満ちている、ということに気づいてはいけない。そう、酸素濃度の上昇は酸素中毒を招くのである。しかし青山真治はそれを人々に気づかせる映画、というか病原体を完成させてしまった。この作品の上映によって彼の集団自殺(レミング)は完成する。憶えておいでだろうか、この病気が視覚映像によって“発症”するという事を。この映画を観て、四六時中ヘッドフォンで爆音を聴くようになってしまったあなた、あたなはまだ大丈夫である。いわゆる「音楽」なしに周囲の音楽に耳を澄ますようになってしまったあなた、ご愁傷様。人間は酸素(音楽)のない環境では生きてはいけない、だからといって過剰摂取もよくない。そしてこの映画を前に我々はこの状況に対して、こう叫ぶしか術はないのである、「Eli, Eli, lema sabachtani?(神よ、何ゆえに我を見捨てたもうや。)」と。

[2005日本/ファントム・フィルム] [監督][脚本]青山真治[製作]仙頭武則[撮影]たむらまさき[音楽]長嶌寛幸[出演]浅野忠信/宮崎あおい/中原昌也/筒井康隆/岡田茉莉子/戸田昌宏/川津祐介
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