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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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月の砂漠 にわにわとりがいるにわはどこのにわ?

月の砂漠彼らがいるのは一体どこなんでしょう。父と母娘、それぞれが住んでいるマンションには全く生活感がありません。その他、この映画で使われている殆どのロケーションが現実味を欠いています。もしかしたら本当にそこは月の砂漠なんでしょうか。そして辺りが暗くなってようやく姿を見せるあのほの明るい星こそが我らが水の惑星なんでしょうか。

人と人、特に父母娘の3者に的は絞られ、場所、時間、隣人、そういったものとは断絶された記号的関係性だけが浮き彫りにされます。もしかしたらこれは、AさんBさんCさんの3つの磁石をホワイトボードに並べてマジックで線を引いてできる図、もしくは青山真治の新たなフィールド、小説なんじゃないかと思ってしまいそうです。しかし何かが違う。

小説の場合、もともと全てを書き記すことなどは放棄されていて、どこまでいっても小説にあるのは記号的関係性だけです。文字記号で表されたそれに肉付けをしてリアルなものにするのは、読者の想像力の領分です。例えば、「AさんがBさんを殴った」という文字記号に対して、読者は各々の心に照らして各人なりのリアルな像を頭の中に結ぶ、といったような想像力の機能に頼っているということ。逆から考えると、小説を読んでリアルな像が頭に結ばれることは、もう自動化されていて、リアルでない像が結ばれる余地はないわけです(その自動化を阻むようなレトリックを仕組むことはできますが)。

映画の場合は、そういうふうに自動的にリアルなものを構築する機能、想像力に委ねる仕組みはずっと弱く、スクリーンに映っている像がそのまま補完されることなしに頭の中の像として受け入れられがちです。だからこそシュルレアリズム的な映画作品は念入りにイメージを作らなければならないでしょうし、黒沢明がセットの中で絶対に開けられることのない引き出しの中にもきっちりと小道具を詰めておいたなどという笑い話(?)も成り立つわけです。

『月の砂漠』に戻りますと、そういう映画の仕組みが利用され、見事なまでのリアル感のなさなのです。やくざの親分がマッサージを受けている部屋。社会から断絶されて、ぽつんと一軒だけ建っている田舎の家。登場人物たちが立っているその場所が、ことごとくどこなのかわかりません。(だからこそ私が唯一どこだかわかった場所、新宿の都庁前の道を母娘で歩くシーンがとても印象的でした。しかしあの場所に現実味があるかといえば、やはりありません。なぜならばあのあたりは碁盤の目のように縦横に道が配置されていて、とても人工的な作りになっています。しかも道と道が立体になっている部分があり、私自身がバイクで走っていてもすぐにどこを走っているのかわからなくなる始末なのですから。あれ?個人的な問題?)

地に足がつく、という言い方がありますが、あの家族は世界との接点を失ってしまっています。そこで生きているという感覚。そういえば彼らはことあるごとに寝そべっていたように思います。ソファの上や畳の上に横たわって、身体を地面にすっかりあずけてしまうような仕草は、自分たちがどこで生きているのかを確認しているのでしょうか。そしてナガイさんは拳銃で撃たれてしまいます。地面の上に倒れ、身体から滴る自分の血をみた、あのシーンから彼の目が何かを決意したようなそれに変化したのではないでしょうか。

ユリイカ(EUREKA)父親を射殺したい衝動に駆られている青年たちは、『ユリイカ』でのお兄ちゃんとダブります。自分がどこで生きているのか、地に足がつかない人間が、生々しいもの(血)を欲求するのです。そしてユリイカでは再生への第一歩を踏み出したラストシーンで白黒画面に色が付き、カメラは空高く舞い上がって、大地と人を俯瞰しました。『月の砂漠』の最後はストップモーションで終わります。そこに映っていたのはナガイさんであり、スクリーンの中心に捉えられているのは、撃たれてしまったナガイさんの腕、シャツににじむ赤い血でした。そして彼は笑っています。社会から断絶された家にやってきた唯一の村人が持ち込んだニワトリと戯れながら。

月の砂漠 ホームページ
[amazon][DVD] 月の砂漠

[2001/日本/レントラックジャパン=パンドラ][監督/脚本/編集]青山真治[プロデューサー]仙頭武則[撮影]田村正毅[出演]三上博史/とよた真帆/柏原収史/夏八木勲/秋吉久美子/萩原健一/生瀬勝久/ピエール瀧/碇由貴子/細山田隆人

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