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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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ベン・シャーンの絵

玄関のベン・シャーン実家からベン・シャーンの絵が送られてきました。もちろん本物ではなくて、1981年に開かれたベン・シャーン展のポスターのようです。なぜ今それを送ってきたんでしょうか。押入の掃除でもしたのかしら。ふしぎな気分に引きずられながらも、さっそく新宿の東急ハンズへ行って額を買い、玄関の下駄箱の上に飾りました。

このポスターの中にプリントされた絵には『二十羽の白い鳩』というタイトルがついています。少し調べてみますと、これは『ラッキードラゴン』という一連の作品群に属していることがわかりました。1954年の第五福竜丸(Lucky Dragon)事件を題材に採っています。

ベン・シャーンの鳩画面の上部、半分以上が白い鳩に埋め尽くされています。白は白でも真っ白のあっけらかんとした明るさはなく、画面下部で亡くなった船乗りの肖像を高く掲げている赤い服の女の子と、茶色の柱のようなものにしがみついている男の子の眼差しから、強い憂いと哀切な平和への願いが伝わってきます。眼差しに見つめられて、ふとノスタルジックな気分とともに別の眼差しのことを思い出しました。

今うちの玄関に掲げたのと同じように、私が小学生の頃、まだ改築前の実家の古い玄関にベン・シャーンの絵が掲げられていて、家へ出入りする者を睨み付ける眼差しがありました。『迷宮(Labyrinth and Icarus)』(リンクしたページに写真があります)というこの作品を、父はなぜ玄関に飾ったのか、理由は全くわかりません。真っ赤なこの絵は異様な迫力に満ちていて、来客を追い返してしまうような雰囲気すらありましたから、父以外の家族全員がふしぎに思っていたはずです。(そう言えば近所の友達がうちに集まることはほとんどありませんでした。この絵のせいかしら。今思えば家の入り口に、クレタの迷宮の絵を掲げるなんて、なかなか気が利いているんじゃないかと思います。迷うほど広い家じゃありませんけど。)

ベン・シャーンの眼差し当時理由を聞いても父は答えてくれませんでしたし、この絵がどういう意味の絵なのかも教えてくれませんでした。幼い私にしてみれば、この絵が何なのかなどさっぱりわからず、その燃えるような赤い色の髪(いや、炎か?)のようなものと、今にも掴みかかってきそうな様子で描かれた手(炎が掴みかかってきているのか?)のようなもの、そして憂いを含みながらこちらを見下ろしている厳しい眼差し(それも、小さい私と丁度目線があってしまうような、壁の少し高い位置に掲げられていました)をただただ恐れ畏れていました。心底怖かったらしく、よく悪夢の中に登場して、私の安眠を妨げていました。

ベン・シャーンは目鼻の描き方に様式があり、太く黒い線で大きな目と鼻を描きます。『迷宮』のこの厳しく大きい目鼻の顔は、その威圧するような雰囲気が父の顔にとてもよく似ています。何か後ろ暗いことがあって家に帰ったとき、玄関からは夕べの食卓にいる父の姿は見えませんが、ベン・シャーンの恐ろしい絵が私には奥で酒を飲んでいる父のように思え、見下ろす眼差しに見透かされているような気がして、自然、正直へと促されたものです。

今また、玄関の白い絵を眺めて、ベン・シャーンが描くその眼差しが、あの赤い絵を思い起こさせ、私の心を見透かしています。

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