KINEMAtograph/Mirror

KINEMAtograph[キネマトグラフ] は移転しました。
ここはミラーサイトとして運営しています。(時々更新します)
恐れ入りますが、http://kinematograph.net/ へブックマークの張り替えをお願い致します。
(記事へのコメント、トラックバックは停止しています。ご意見ご感想はこちらで承ります。)
---------------------------- 2005/05/01 管理人

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- | permalink | - | -
<< トゥーブラザーズ 〜子トラの肉球、野生クマに思いを馳せるの巻〜 | main | 笑の大学 〜“自由のために” 青空検閲の必要性〜 >>

私立探偵 濱マイク 6「名前のない森」 〜独り寝に纏わるIDクライシスについての私論〜

私立探偵 濱マイク 6 青山真治監督「名前のない森」ひとりで布団に入って眠れない夜に、どうしようもない孤独感に襲われるときがあります。さみしい気持ちが募って、布団を抱えこんで悶絶しながら自分の内側へ内側へと入っていくときに味わう途方もない感覚は、孤独であること、すなわち私が他人と違うという実感です。私が私でしかないという絶望的な事実がまずそこにあって、もし翌日の夜には誰かと抱きしめ合って寝ていたとしても、それは私と彼女がひとつであるということにはなりえない、そういう風に考え至るに及んで、では一体私と彼女を別の存在に隔てている絶対的な壁とはなんぞやと今抱きしめている布団に問いかけますけれども、私の冷たいせんべい布団はただ、それはそうなんだからしょうがないじゃない、なんてことを言って私を突き放すのです。

実際に目と目を合わせて手をつないで名前を呼び合って、彼女がどこにいるのかを確かめながらならば、彼女がいることを通して自分が何者なのかということを大体わかったような気になっているはずなのですが、夜の闇の中にひとりでいるのでは、灯台のあかりを見失って彷徨う船のように、自分がどこにいるのやらわからなくなって無性に不安になります。他人との違いの中でしか自分が何者なのか決められないために、その手がかりとして私にもマサキ杏平という少し大げさな名前がついています。しかしそれは私を不安にさせないために親が用意してくれたに過ぎません。後付けでないもっと確かなもの、私が私であるという証拠を求めるのですが、結局自分ひとりぼっちでは解決しようがないのだと知ります。そのくせ私が私であって、彼女と一体ではない事実に変わりはないようで、それはまるで森の木々がつかず離れずの間隔で林立している、その一本としてそこに立っているしかしょうがないというような感覚です。

先生(鈴木京香)が率いている団体は全然宗教ではありません。宗教とは私と一者がひとつであることを教えるものであり、一者を仲立ちとして私と彼女、その他の人々もひっくるめて同じにしてくれるものだからです。名前のない森の団体に入った構成員は、名前を失い、連絡手段を失い、森の木々のようにお互いつかず離れずの距離を保たねばなりません。そこで許される遊びは、卓球やオセロ。ふたりで向かい合っていても、ネットで区切られていたり、色を分けた駒を仲立ちにしていたりして、ふたりの接触を拒むものばかりです。サッカーや腕相撲とは全然違います。そこでは自分と他人とが別であるという事実を突きつけられながら、それを確認する術を奪われるのです。森を求めてやってきて、そこを居心地がいいと言って、世間へ戻ることを拒絶するような心境には、私自身なったことがないのですが、もしかしたらそれは与えられた名前や周囲の人との相対関係によってしか自分のいる場所を措定できないことに苛立ちを感じて、そうではない自分を探す姿なのかも知れません(それは殺人をして他人の存在を消すことに始まり、自殺して自分の存在を消すことに終わるのでしょうか)。特に、「濱マイク」というような私よりもずっと大げさな名前を背負わされてしまっている人ならば、尚更名前のない森に惹きつけられるでしょう。名前に拘って「濱さんじゃない、マイクだ」と宣言する以外の方法で彼は彼らしくありたいのではないでしょうか。

超ロングショットで捉えられる人物の位置関係、または人から人へ素早いパンで繋がる距離感で描かれる人間同士は、切り返しショットが生み出すような断絶でもなく、また同時に交わり合うこともない、実に森の木々が間隔を空けて並んでいるようでした。マイク(永瀬正敏)が不真面目にだらだらと喋くるのも遠景で捉えられた周りの雰囲気と一切かみ合わず、掛け合いでマイクが決め台詞のように洒落をいうのも、その掛け合いがパンで繋がれることから、テンポが少しカクっとはずされて、イマイチ決まり切らずに滑っていきます。濱マイクを受け容れない世界が作られて、濱マイクが濱マイクであることをやめたくなるほどです。青山真治という男は余程の偏屈とみました。

随分遅れて今ようやくこの『名前のない森』を見ました。(AmazonのDVDを紹介しておきながらナンですが)TSUTAYAでDVDをレンタルして見たのですが、盤面のキズと汚れのせいで何度となく画面が止まり、鑑賞に堪えないものでした(といいながらレビュー書いてるんだから不誠実極まりない)。皆さんもレンタルしたDVDは丁寧に扱いましょう。間違ってもレコードのスプレーで磨いたりしないよう。また、くらしに余裕のある方はDVDを購入されることを是非ともオススメします。その時はKINEMAtographのページからポチッとAmazonリンクを押して頂けますと、運気が上がるとか上がらないとか。

[2002/日本][監督]青山真治[原作]林海象[脚本]青山真治/益子昌一/須永秀明[撮影]たむらまさき[出演]永瀬正敏/鈴木京香/大塚寧々/原田芳雄

[amazon][DVD] 私立探偵 濱マイク 6「名前のない森」
※DVD収録のバージョンはテレビ放映のものと違い、72分の長尺版です。

Kinema | permalink | comments(0) | trackbacks(0)

スポンサーサイト

- | permalink | - | -