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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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『ローレライ』 ひとのいたみ

ローレライパウラ(香椎由宇)という少女がもだえるのは、遠くで別の誰かが死んだサインです。彼女は一般の人間が行う共感を超えた、超共感とも言える力――水を媒介にした間接的な他者との接触によって、自分の上でヴァーチャルに他者の感情や感覚を体現できる能力――を持っていて、具体的には本来盲目な潜水艦に鮮明な視界を与え、またその副作用として戦死した敵軍兵士たちの痛みを彼女の身体で一手に引き受ける苦しみを背負います。これに似たことが『グリーンマイル』で描かれていましたが、もっと厳密には『ローレライ』は戦争アニメの系譜にあるでしょう。この映画を楽しむためには「戦争は知らないけれどもガンダムは知っている」そういう映像体験が必要なのです。「戦争映画なら何でも見に来る」といった風情のおじいさんたちがエンドマークを見ずして席を立って行ってしまうのは、無理もないことです。

グリーンマイル『ローレライ』における少女の超共感が罪深いのは、敵が死ぬことと仲間が苦しむことをすり替えてしまったところにあります。他人の痛みが自分の痛みに変わってしまうことで、敵軍を滅ぼすことが自軍が滅びることに置き換わり、対立的な二者が「傷つけ合っている」はずの戦争が、いち少年少女の個人的な自傷行為として、甘ったるいメロドラマになってしまうのです。『ローレライ』が戦争アニメの系譜にあると申し上げましたが、例えば『ガンダム 』の「これ悲しいけど戦争なんだよね」という有名なセリフは、戦争のメロドラマ化をわかりやすく語ってくれています。これは「亡くなった敵さんはとても痛かっただろうけれども、戦争のために私は暴力をふるい続けます」と言うのとは違っていて、戦争の罪深さが相手の痛みではなく、自分の悲しみとして表現されてしまうのが、日本の戦争アニメなのであって、超共感などのSF的要素を導入したことで生まれた新しい戦争認識の形だと思います。

劇場版 NEON GENESIS EVANGELION - DEATH (TRUE) 2 : Air / まごころを君にそしてそれによって戦争アニメの主人公たちは誰憚ることなく、敵をばったばったとなぎ倒すことができました。つまり暴力が自分の痛みとの葛藤の問題として取り扱われる分には、実際そこにあるはずの相手の痛みのリアリティとそれへの疎ましさがどこかへ行ってしまうのです。誰かが血を吹いて倒れるのに嫌悪感を感じる人はいたとしても、ひとりシャドーボクシングに汗を流すのをとやかく言う人はいないでしょう。

月に繭 地には果実〈上〉人間には暴力的な欲求があるのだと思います。人々が暴力に後ろめたさを感じながらも求めてしまっているからこそ、戦争アニメは暴力をメロドラマにして、免罪符を得たような形で描き続けるのです。しかし暴力的な欲求は何とか我慢したいものです。よく「人の痛みを知れ」と言いますが、超共感などを持ちだして、他人の痛みを自分の痛みにすり替えてしまうのは曲解ではないでしょうか。私は「人の痛みを知る」本当の意味とは、「他人の痛みなどわかりっこない」と知ることではないかと思います。他人の痛みに共感するとしても、それは私が他人が痛がる姿を見て、自分が痛かった同様の事件のことを想起するだけの話であって、結局彼のその時の痛みを私が感じることはできません。誰かがタンスの角に足の指をぶつけるのを見たとき、私も痛い気がしますが、実際は「痛そう」なだけであって、私が彼と同じ痛みを共有するのではありません。他人の痛みなど結局自分にはわけのわからないものなのです。自分の暴力の結果は必ず他人の痛みとして、他人の主観的な領域に決着してしまうと知れば、暴力の「快感」自体の存在が怪しいものと言えるでしょう。そして他人の苦しみがわからない、この途方もない恐ろしさが暴力的欲求を抑止するのだと思います。

終戦のローレライ フィギュア付きBOXセット 全4巻N式潜の中で敵兵士の苦しみは少女の苦しみにすり替わり、少女が紋切り型に悶えて、すっかり性的なイメージにすり替わるのを見て、私は嘔吐しそうになりました。折笠一曹(妻夫木聡)は苦しむ少女をただ見ているほか、何もしません。彼はガンダムを見ている少年の投影――樋口監督の投影――なのでしょうか。N式潜は本体の伊507から分離し、少女を見つめる少年を載せてどこかへ消えていきます。大儀のため、伊507の大砲がB29めがけて火を噴きます。絹見艦長(役所公司)は『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長気取りです。ふざけんな。

[2005日本/東宝][監督]樋口真嗣[製作]亀山千広/臼井裕詞/市川南/甘木モリオ[原作]福井晴敏[脚本]鈴木智[撮影]佐光朗[音楽]佐藤直紀[出演]役所広司/妻夫木聡/柳葉敏郎/香椎由宇/堤真一/石黒賢/小野武彦
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この記事に対するトラックバック
多分、この映画のブログを書く人は同じことを書くと思う。 でも、あえて書く。 作者の福井氏が唱えるように、“ガンダム”の影響を受けている。 そして、“宇宙戦艦ヤマト”みたいだ。 絹見真一(役所広司)はブライト(すこし違うけど)。 折笠征人(妻夫木聡)はアム
ローレライ | うぞきあ の場 | 2005/03/21 1:01 AM
今日(3/7)は、 久々に映画を鑑賞してきました。 前から気になっていた「ローレライ」です。 フジテレビと東宝がタッグを組んで 制作した映画でです。 ストーリーは結構難しいです。 でも、何となく理解できました。 (ナチスドイツの潜水艦が、 なぜ日本の軍
六本木ヒルズでローレライ〜。 | マサ’ズ ウェブサイト | 2005/03/21 10:04 AM
観る前から予告編やCMでかなり期待した「ローレライ」です。 この作品期待以上でした。この際、細かい所は目を瞑って許してあげましょう!その細かいところはCGが安っぽい所とか、ストーリーの柱となるものが始まって30分経過した頃から分かってきたこと。そして
ローレライ | In my opinion・・・ | 2005/03/21 12:24 PM
期待を裏切らない、すごくすごく熱い物語! 結構人間くさいドラマが好きだったりする
映画「ローレライ」 | RAKUGAKI | 2005/03/21 7:43 PM
この前、話題の映画「ローレライ」を見てきました。 ネットでレビューを色々と読んでみますと(原作を読んでいるので「ネタばれ」は平気です!)、まさに賛否両論が渦巻く映画なようで・・。 私は、宣伝では面白そうに見えてもネットでの批評が芳しくない映画は
【ローレライ】の現実感のなさ・・。 | 酒と女は二合迄〜♪和風居酒屋・花ふぶき店長日記 | 2005/03/21 9:53 PM
KAZZのこの映画の評価 いやぁ〜驚きました 日本の映画で潜水艦映画が作られるとは。。。 出だしのタイトルは凝っていて格好イイですよ ラストの戦闘シーンは洋画なみ?セットも非常に良く出来ています 手に汗握る緊張感!音も映像も迫力あります ただ、少し違
#15:ローレライ(試写) | (売れないシナリオライター)KAZZの呟き! | 2005/04/05 3:06 PM