KINEMAtograph/Mirror

KINEMAtograph[キネマトグラフ] は移転しました。
ここはミラーサイトとして運営しています。(時々更新します)
恐れ入りますが、http://kinematograph.net/ へブックマークの張り替えをお願い致します。
(記事へのコメント、トラックバックは停止しています。ご意見ご感想はこちらで承ります。)
---------------------------- 2005/05/01 管理人

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- | permalink | - | -
<< 『ローレライ』 ひとのいたみ | main | [イベント] 「ウディ・アレン祭」のお知らせ >>

『アビエイター』 揚力と重力のバランス

アビエイター幼い頃の母の言葉が呪縛になって、ハワード・ヒューズは細菌を恐れ、清浄な場所を渇望し、空を選びました。空がそんなに清浄なのか、本当に細菌やその他の不潔なものたちがいないのかどうか、それはわかりませんが、地上にいると自分に接触してきてしまう煩わしいものたちから逃れるには絶好の場所です。逃げているのだから、後戻りはしない。逃げまくっているのに逃げ切れない。そういう映画でした。

カジノ3時間あまりの長いフィルムのうち、前半は彼が風を受け揚力を得て離陸する姿です。数十機の戦闘機が画面一杯に散らばり、入り乱れて飛びます。『地獄の天使』の撮影で、親から譲り受けた会社を抵当に入れてまで集めた飛行機の、その一機に彼が乗り込んでいました。経営者としても映画監督としてもあまりにリスクが高すぎます。彼が火宅の世界に生まれて、その命を繋ぎ止めていられるのは、母がいたからであり、父の会社があったからであり、地上があったからに違いないにも関わらず、彼はそれらを全て捨てるリスクを厭わないで、死に一番近いところを志向し、生死の間際に平穏な場所を求めました。つまりそれは揚力と重力がちょうど釣り合う速さと重さで、人間が生きられるすれすれの高度の空を飛ぶことです。

ギャング・オブ・ニューヨーク離陸のシーンが壮麗に勇ましく描かれるのに対して、まともな着陸のシーンがありません。彼の飛行機設計は綿密に見えて、案外着陸の想定が抜けていたのではないでしょうか。飛び立つための滑走路は必要でも、それは帰る場所ではないようです。そもそも帰ることなど想定されていず、飛びっぱなしで滑走路も会社も、自分を地上に引き戻そうとする全てのしがらみを忘れてしまうのです。永遠に生死の間際の空を飛び続けて、自分にまとわりついてくる細菌から逃げ続けなければ生きられないのです。

しかし揚力を得られるのは有限な時間のあいだ、燃料の続く限りと決まっています。地球は永遠に彼を地上方向へと引っ張り続けるというのに!どう考えても重力が優勢です。落ちます。

ニューヨーク・ストーリー落ちてから、彼の神経症はひどくなりました。しかし彼はすっかりおかしくなって自分の生を見失ってしまったわけではなかったと思います。狂ったように手を洗い続けてしまうとき、こう!と思った言葉が口をついて何度も何度も繰り返して止まらないとき、その繰り返し行動にすっかり心を奪われてしまっているのではありません。むしろそれを止めようとして彼の表情は険しく歪んでいました。抗いがたい強迫に身体の制御が奪われているのを、それでも何とか取り戻そうとする心の作用です。ですから彼は本当に狂ってしまってはいません。生をあきらめていない。もがいてもがいて次の離陸の揚力を得、再び平穏なところ、死に向かいながら死の直前のところで、生き続けようとしていたのだと思います。

タクシードライバー コレクターズ・エディション中盤、彼は体と心のバランスを失って部屋に閉じこもってしまいます。部屋に糸を張り巡らせるのは飛ぶためのバランスを取り戻すため、プロジェクターからの空の映像を自分の裸身体に映写するのはきれいな空との一体化なのでしょうか。少なくとも部屋から出た彼は不利かと思われた裁判を見事に勝ってやり抜けました。そして再び操縦桿を握って、大型の飛行機を離陸させます。あまりに巨大な飛行機は海面すれすれの超低空飛行でした。それは、逃げ続けて逃げられない間にとうとう肥大してしまった呪縛の重みと、年老いた彼に残された力とが釣り合った高度なのかもしれません。たとえ低空であったとしても、地面と空の間、理想と現実の間、生と死の間に、自分のすれすれの生きる道を求め、バランスを取って飛行する姿は勇ましくて愛おしい。

そしてまたも地上に戻ってこざるを得なかったわけです。次の飛行では揚力と重力の永遠のバランスは得られるでしょうか。彼が口ずさんだ「未来への道」、それは「次こそは!」と臨む滑走路なのだと思います。

[2004米/松竹=ヘラルド][監督]マーティン・スコセッシ[製作][出演]レオナルド・ディカプリオ[製作]クリス・ブリガム/リック・ヨーン/ハーヴェイ・ワインスタイン/ボブ・ワインスタイン/リック・シュワルツ/コリン・コッター[製作]マイケル・マン/サンディ・クライマン/グラハム・キング/チャールズ・エヴァンズ Jr.[脚本]ジョン・ローガン[撮影]ロバート・リチャードソン[音楽]ハワード・ショア[出演]ケイト・ブランシェット/ケイト・ベッキンセール/ジュード・ロウ/グウェン・ステファニー/ジョン・C・ライリー/イアン・ホルム
Kinema | permalink | comments(1) | trackbacks(2)

スポンサーサイト

- | permalink | - | -

この記事に対するコメント

 今更ですが、今日「アビエイター」を観てまいりました。約三時間あると聞いて、面倒くささを感じつつ(最近、めっきり長い映画が苦手になりまして)、観始めたらあっという間に三時間が過ぎ去っていました。この批評を読んで、ナルホドと頷いてしまう個所が何個もありました。あと、ここに書いてないことで僕が気になったのは、所々で焚かれるフラッシュです。彼は序盤の「地獄の天使」の披露パーティーのシーンから、所々でフラッシュを浴びます。また、考え方によっては、彼が序盤から浴びる映写機から放たれる光も、その構造的にフラッシュの一種と考えられるのでないか・・・とまあ、気になることはあったんですが、文章としてはとてもまとめられないので、もう一回観直したい心境です。
藤田gackt | 2005/04/25 9:17 PM
この記事に対するトラックバック
映画産業と航空産業。その二つの分野でトップをつかんだ男の夢物語。ビジネス戦争有り
映画「アビエイター」 | RAKUGAKI | 2005/04/15 6:47 AM
「アビエイター」★★★☆ レオナルド・ディカプリオ主演 ディカプリオは スターの輝きで 画面を支配し、 見終わって 印象に残ったのは、 壮大なムダ遣いのお話。 自分のやりたいことをして 生きていくのが一番の贅沢と 改めて実感。 食べるために働く