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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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フットボールを見ることの不可避の残酷性

フットボールは、時として残酷極まりない体験を用意する。それは見ることの残酷性と言ってもよいものだ。

チームの完成度、戦術の美しさ、個々人の能力等、様々な要件を鑑みて「強い」チームは確実に存在する。私の考えではアーセン・ヴェンゲルが率い、ティエリ・アンリの居るアーセナルがそれにあたる。ヴェンゲルの志向するフットボールは、来るべき未来のフットボールの姿であるし、アンリの運動は、同僚のベルカンプやピレスが述べるように、二三年先を行っている。レアル・マドリードが「銀河系軍団」ならば、アーセナルは「異次元軍団」なのだ。なぜなら、アーセナルは、「時間」を超越しているチームだからである。銀河系という途方もない距離や広さをも凌駕する、「時間」という概念がアーセナルには付随するのである。しかし、それはアーセナルがフットボールの未来を体現しているという理由からだけではない。今現在なる「時間」さえも統御できるという意味も有する。実際、アーセナルのゲームは、その戦術的プランによって空間ばかりか時間をも演出し、ゲーム自体を支配する。アーセナルのゲームを一度でもみたことのあるものなら、その一見不可思議な印象を拭うことなどできないであろう。それは新しいフットボールの姿だからである。

アーセナルは空間ばかりか時間をも支配する。その事実ゆえ、今年のリーグ戦は無敗なのであり、強豪にしては僅差のゲームが多いのである。逆に、「銀河系軍団」のほうは、乱打戦や僅差負けを繰り返している。それは、彼らのフットボールに「時間」の概念がないからである。かろうじてジダンだけが、フットボールに「時間」が必要だと知っているので、何とかリーグ戦首位でいられるのだ。なぜ、あれだけのタレントを擁しチームが機能しないのかは、個性と個性がぶつかるからではない。単に「時間」というものに、コーチ、選手が鈍感だからである。「空間」を支配しても「時間」を操れなければ、ゲームには勝てなくなっている。それが今のフットボールなのだ。

もうここまで述べたことからわかるように、今のアーセナルに死角はない。ちょうど先週ぐらいまでは「三冠」も視界に入っていた。私がここ五年ほど公言していた「アーセナル最強説」は現実のものとなるはずであった。しかし、先日国内のカップ戦でマンチェスター・ユナイテッドに敗れ、儚くも「三冠」の夢は断たれる。何やらおかしいぞと感じたが、たかが国内カップ、そんなもの裏山の犬(ファーガソン[よく吠える!])にでもくれてやれと思い過ごす。しかし雲行きが怪しい。そう思っていると、チームにとって悲願の欧州制覇までもが夢と化した。それもここ数年負けたことがなかったチェルシーに敗れてである。あのいかがわしいアブラモビッチというロシア人が、石油による巨万の富で買い集めた選手のチームにである。つまり、石油で買ったのだから、限りなく「太陽系地球軍団」に近い集団に、「異次元軍団」は敗れたのだ。

1stレグはともかくも、2ndレグのアーセナルはとにかく醜かった。アンリはいつもの切れがなく、ミッドフィールドのプレッシングは皆無だった。レジェスの動きが前線のスペースを消してしまっていた。過去のイングランド・フットボールを模倣するかのように、ディフェンダーがボールを奪うとすぐに前線に放り込むだけの単調な攻めに終始していた(後半)。いつもの流れるような中盤のパス回しがないのだ。当然のことだが、「時間」ばかりか「空間」も支配できないアーセナルに勝ち目はない。そして1−1の後半終了間際、逆転される。しかし、ここで奇妙なことが起こる。逆転され、勝ち上がりがほぼ不可能になったはずのアーセナルの選手は誰一人絶望の表情を見せなかった。諦めなかったからではない。おそらく醜いフットボールを演じてしまったアーセナルの選手たちは、そのことを自覚し、自分たちに勝ちあがる権利などないと悪あがきを慎んだのである。「異次元軍団」アーセナルは「太陽系地球軍団」に、負けた。敗因は、欧州フットボールの過密日程に言及されるだろう。とりわけビッグクラブでないアーセナルはターン・オーヴァ制を採用できない。また、リーグ戦連続無敗記録という名誉のために主力を温存できなかったことも一因であろう。いみじくも、「時間」のチーム「異次元軍団」アーセナルは、日程やら記録といった時間に足もとをすくわれたのかもしれない。

フットボールはフィールドを主戦場とする。重力に逆らい異次元を浮遊する美しいフットボールは敗北するしかないのか。アーセナルがチェルシーという「太陽系地球軍団」に負けたことの意味はことのほか重大である。「時間」のフットボールはまだ過渡期なのだ。まだ完全なる「時間」のチームに変貌しきれていないアーセナルを信じつつ、もしやまた地上の、土着のチームに敗北するかもしれないという疑念を抱きながら、フットボールを見ることで付き纏う残酷性を私は覚悟しなければならない。

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