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---------------------------- 2005/05/01 管理人

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『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』 一人称の世界

リチャード・ニクソン暗殺を企てた男おそらく、この映画のほぼ全てのシーンにサム・ビック(ショーン・ペン)の頼りなく、世の中に対して静かな憎悪を抱いた姿が現れてしまっていた。そして聴こえてくるのは余りにメランコリックな音楽。つまり、このフィルムにはサムの与り知らないシーンも空間も存在しない。フィルムに残るのは彼が存在し彼が目にしたものだけで語られ、彼の惨めさを彩るだけの音楽が奏でられる世界、一人称でしか語られないとても小さくて窮屈な世界だ。

サムは自分の取り得るマージンを客に明かして納得した上で商品を買ってもらうという正直な商売がしたいと願うが、その誠実さと自尊心はやがて肥大化しきってしまい、資本主義社会への憎悪、そしてテレビに映るリチャード・ニクソンへの殺意へと転化していく。元々、サムの考える誠実さは決定的に他人への距離が欠落しているのだから、自意識が膨張してしまうのは宿命でもあるのだが、そのあらゆる物への距離の欠落は反転して自分だけしかいない世界へと倒錯を起こす。別れた妻の家に連絡もせず突然訪ねて行ってしまうこと、事業融資の申請書類に添付しているタイヤ販売トラックの設計図は方眼紙に手書きしたまるで小学生のお絵かきのようであること、それらはサムが自分だけの世界に生きている証としての行動だ。必死にセールスマンとなってみようとして社長に薦められた営業の心得としての本を読み自己啓発のカセットテープを聴いてみたところでサムは受け入れることが出来ないのは当然のことだ。いや、受け入れられないのではなく、彼は認識できない。納得できないもの、自分とは違うものは全て自分に対する攻撃だとしか思えないだろう。サムの不満は募るばかりであり、彼の逃げ込む場所は親友の黒人の家や黒人差別反対運動への支持、レナード・バーンスタインへの手紙となる。サム曰く「一点の曇りもない響き」のバーンスタインが指揮する音楽も、黒人への憐憫も結局のところ自己の投影にしか過ぎない。全ては自意識の膨張と共に自分だけしかいない世界へと収斂していく。

自意識のブラックホールへと落ち込んでいくサムをカメラは徹底した一人称でしか捉えない。果たしてそれは意識されたものなのだろうか。きっと答えは、「確信犯」だ。しかしそれは解せない。映画は間違いなく距離の伸縮と、その中の運動を鮮やかに描き出して見せてくれるはずのものだからだ。この映画の観客がたとえこの物語に巻き込まれサムに同情しようとしまいと、悲劇に彩色されのっぺりとした下手くそな肖像画を映画館に観に行くわけではない。今回ばかりはショーン・ペンの緻密で素晴らしい演技が返ってこの映画の瑣末さに拍車をかけてしまっている。

しかしながら、フィルムの最後、サムも自分だけの世界から解放される瞬間がやってくる。ハイジャックに失敗したサムが狙撃された瞬間、彼は自分以外の存在を暴力的に、身体的に認知することになる。そして決して聴こえることのなかった彼自身が放つ最後の銃声によってサムは語られ得ない世界へ旅立ってしまった。親友のオフィスにあるテレビ、離婚した妻が働くバーにあるテレビでもサムが起こした事件は伝えられていてもその姿はおろか、名前も分からず、彼・彼女等が気付くこともない。もはや一人称では語られ得ない世界に舞い戻ったサムの亡霊がカメラに向かって飛行機模型を片手に走り込んで来るラストカットだけがこの窮屈なフィルムを爆発的に時間の拡がりへと繋がらせてしまう瞬間であった。

[2004米/ワイズポリシー=アートポート] [監督][脚本]ニルス・ミュラー[製作][脚本]ケヴィン・ケネディ[製作]レオナルド・ディカプリオ/アレクサンダー・ペイン/アルノー・デュテイユ/アヴラム・ブッチ・カプラン/フリーダ・トレスブランコ[製作]アルフォンソ・キュアロン/ホルヘ・ヴェルガラ[撮影]エマニュエル・ルベッキ[音楽]スティーヴン・スターン[出演]ショーン・ペン/ナオミ・ワッツ/ドン・チードル/ジャック・トンプソン/マイケル・ウィンコット/ブラッド・ヘンク/ニック・サーシー
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